閉鎖環境
宇宙空間や深海などの閉鎖環境では、外部との接触がないため、物質や空気のやり取りが制限される。例えば、国際宇宙ステーション(ISS)や深海探査船「しんかい6500」などは、外部との接触がなく、閉鎖環境の一例として挙げられる。宇宙や深海などにおける閉鎖環境では、生活や健康に関する様々な課題が存在する。このような環境では、ヒトに対する心理的な影響や健康へのリスクが生じる可能性がある。
宇宙飛行士は、長期間にわたり限られたスペースで同僚(他国の宇宙飛行士)と24時間生活し、外部との接触がない環境で各種の実験や運用などの作業スケジュールは細かく組んであり、一旦ミッションに入れば例外的状況を除けば数ヶ月間は自由に止めることはできない。また、概日リズムが乱れることや平衡感覚のずれによる不眠症や閉鎖環境による孤独感もストレスを引き起こす大きな問題となっている。もともと宇宙飛行士には、ストレスに強い人やストレスを受けてもうまく処理できる人を選ぶため、普通の人よりストレスに耐えていけるが、心理的なストレスや関係の変化などから作業効率が下がってしまう、他人と協力や地上との交信に応じないなどのリスクは拭いきれない。宇宙環境における心理学や精神医学の研究はまだ初期段階だが、宇宙飛行士の選抜や訓練、地上での心理的なサポートなどが重要な課題である。
また、ストレスによる免疫能力の低下などの可能性が高いことから、微生物のリスク管理は重要なテーマであり、宇宙船内の微生物汚染に対する対策が求められている。実は宇宙船内でもヒトがいる限りは、常在菌や環境菌として微生物が存在する。微生物による問題には、機器へ付着して不具合をもたらすことや常在菌などのバランスがストレスなどの要因により崩れてしまい宇宙飛行士の健康に害を与えるなどの問題がある。そのため微生物リスクに関しては、宇宙船内の微生物汚染を管理するための対策が必要である。宇宙船内では、空気や水の循環を管理し、フィルターや処理装置など、設計段階から微生物の侵入経路を考慮し、船内の微生物繁殖を防止するための対策が取られる。また、宇宙飛行士自身の衛生管理や定期的な清掃活動も行われる。このように、宇宙船内の定期的なメンテナンスや清掃活動によって、微生物の増殖や汚染を抑える工夫が行われている。
宇宙環境における閉鎖環境の課題は、将来の長期宇宙飛行や有人火星ミッションなどの探査活動においても重要な問題となる。長期間にわたる宇宙滞在では、生活の質や宇宙飛行士の健康状態を維持するために、心理的なサポートや微生物リスク管理が欠かせない。宇宙環境における心理学や精神医学の研究は、宇宙探査の成功に向けた重要な一環で、重要性は上がり、急務となっている。これらの研究を通じたフライトサージャンを中心とした健康管理体制の確立は、宇宙飛行士のメンタルヘルスやパフォーマンスの向上などに貢献するだろう。同様に、微生物リスク管理の研究も宇宙飛行士の安全と健康を確保する上で不可欠だ。宇宙環境における閉鎖環境の課題への対策は、多岐にわたる専門分野の研究者や技術者の協力が必要である。現在、宇宙機関や研究機関、産業界などの連携によって、より持続可能な宇宙探査活動の実現に向けた取り組みが進められている。