【2024年3月7-18日】宇宙医学実習@岐阜医療科学大学でのベッドレスト実験の実施
2024年3月7日から18日の日程で、岐阜医療科学大学 可児キャンパスにおいて模擬微小重力曝露実験(ベッドレスト実験)が行われました。被験者は全国から集まった大学生・大学院生6名で、見学や測定を行う学生を集めると、15名を超える学生が参加しました。
ベッドレスト実験に用いたベッド:
【べッドレスト前後の計測】
本実験では、6名の被験者を3名ずつの2グループ(A、B)に分け、合計4日間(ベッドレスト前2日間+ベッドレスト後2日間)の測定を行いました。測定項目は11あり、以下の日程で各グループに対し計測が行われました。
※1.グループ分けは健康状態、身体の状態によらず、ランダムに行いました。
※2.計測器具の不具合により、一部被験者の測定順序の変更がありました。
※3.ベッドレスト開始前、ベッドレスト終了後は通常のベッドで就寝し立ち歩きも自由とします。
各測定項目は以下の通りである。
1. 起立時血圧応答
0°および 60°で各 5 分間、姿勢を維持させ、以下の項目を計測します。
– 心電図,呼吸曲線(DL-320、S&ME)
– 連続血圧,1 回拍出量(Human NIBP, AD Instruments)
– 血管年齢(アルテット 2,ユメディカ)
被験者メモ:5分間横になった状態から直立の姿勢に移る際に、血液が下方に流れる感覚、皮膚が下に引っ張られる感覚、指先が痺れる感覚、身体に重みが増す感覚が感じられました。ベッドレスト終了後には、血液が下方に流れ頭から血が引いていく感覚、身体が重くなる感覚がより鮮明に感じられました。
2. 重心動揺
直立時で「開眼 1 分」、「閉眼 1 分」、「閉眼+磁石での内耳前庭系刺激1分」、「閉眼1分」の重心動揺 (重心軌跡測定装置、武井機器)
被験者メモ:「開眼 1 分」後に「閉眼 1 分」をやるにあたって、身体の揺れが大きくなりました。その後に耳の後ろ側(内耳前庭系を刺激できる箇所)に磁石を装着することで、明らかに姿勢が安定する感覚を受けました。
ベッドレスト終了後には、バランス感覚の衰えでふらつきがありましたが、初見でなかったこと、力まないことで身体のふらつきを抑えられることを知っていたため、想像以上にふらつくことはなかったです。重心動揺の変化が実験者の想像以下のものであったのならば、こういった事が要因としてあげられるだろうと思います。
ただし、一度揺れ始めたあと姿勢を立て直すのは、ベッドレスト終了後の方が困難でした。
3.耳石機能検査
500Hz、持続時間 0.1msec の音を 1 秒間に 5 回、20 秒間、100 デシベル程度の大きさでヘッドフォンから音を聞いたときの胸鎖乳突筋筋電図。
4.骨・免疫代謝マーカー(採血 約 15mL・ベッドレスト前後で 1 回ずつ)
– PTH・カルシトニン・オステオカルシン・BAP・Ca・P・ビタミン D・スクレロスチン
– リンパ球マーカー (CD4,CD8)
5.骨密度
踵の骨密度測定(超音波骨密度測定装置 CM-300)
6.筋肉量
上下肢の超音波撮影による上下肢の筋肉量を評価
7.fMRI
視覚誘導自己運動感覚に起因する脳内応答評価
8.下肢拮抗筋の筋活動パターン測定
– 立位時ならびに歩行時の筋シナジー測定を実施します。立位時の筋シナジーは、床反力計上にて静止立位を維持した後、前方のディスプレイに呈示された 12 方向に設定されたターゲットにできるだけ足圧中心を一致させる立位課題を行い測定します。
– 課題中、前後・左右方向の足圧中心位置および両脚のヒラメ筋、腓腹筋内側頭、腓腹筋外側頭、前脛骨筋、外側広筋、大腿直筋、大腿二頭筋長頭、中殿筋より表面筋電図を測定します。
被験者メモ:ベッドレスト終了後の測定では、バランス感覚の衰えが感じられ、運動量が上がれば上がるほど左右へのふらつきが大きくなりました。
また、被験者によっては左右のバランス感覚の衰えを訴えていたが、私の場合は前後に重心を移動させた際のふらつきが強かったです。
足の裏側全体で地面を踏ん張っている感覚が希薄で、底がカーブを描いている靴を履いているときと同じような感覚を受けました。
9.歩行動作解析
動作解析カメラシステム(MICROCAM200-4)を用いて、ベッドレスト開始前ならび終了後にベッドレスト被験者の歩行中の動作を撮影、解析いたします(WinAnalyzer)
被験者メモ:ベッドレスト終了後、太もも、足の関節部分の感覚が鈍く、自身の身体が操り人形のようになってしまった感覚を受けました。歩行時、上げた脚とは逆側に引っ張られる(ふらつく)感覚を受けました。
10.体重測定
ベッドレストの前後での体重の変化を計測した。
11.尿検査
ベッドレスト開始日の朝、ベッドレスト終了日の翌日朝に尿検査を実施した。
【実験中1日の流れ】
3月8日金曜日15時41分、ベッドレスト実験、つまり10日間のベッド生活が始まりました。ベッド生活における1日の流れを簡単に紹介します。
◎起床と就寝
起床は6〜10時くらい。被験者によってばらつきがありました。私はいつもPC作業をして夜更かしをしていたので、いつも起きるのが8時過ぎでした。窓側のベッドで寝ていた被験者たちは、太陽の明かりで6時過ぎには必ず目が覚めるという健康的な生活を送っていたそうです。
消灯が22時。部屋全体が真っ暗になるが、私の周りからは0時頃までPCのキーボードを叩く音が聞こえていました。
◎体温と血圧の計測
1日2回、体温と血圧を計測していました。実験期間中、私の体温は37℃前後を行ったり来たりしており、平熱(36.0℃)よりも高かったです。
◎電気刺激
1日1回、お昼ご飯の前後に、電気刺激を実施。「〇〇くん、”刺激”良いか」という先生の声掛けが毎日の楽しみとなっていきました。
◎食事
食事は1日3回。
朝は、黒糖クロワッサンと野菜ジュースのコンボ。(黒糖クロワッサンを食べるたびに、この実験参加のことを思い出すでしょう笑)
昼晩は、弁当とお茶。高齢者宅配専門の弁当だったこともあり、分量は多くなかったが、1日中動いていなかったので、私にとっては適量でした。毎日メニューが変わり、栄養バランスもしっかりしていたので、食事は1日の楽しみのひとつでした。
◎タオル拭きと洗髪
ベッドの上ではシャワーをあびることができないので、2日に1回(看護師さんに頼めば、毎日対応可能)、体の汚れはタオル拭きで落としていました。基本的には自分自身で寝ながら体を拭くのですが、背中は看護師さんにお願いして、拭いてもらっていました。
また、洗髪も看護師にお願いしていました。介護でも使用する大きな専用ゴムバケツを利用して、シャワーで髪を洗います。
人によると思うが、私は昼食後の時間帯で実施することが多かったです。
◎トイレ
タイミングはもちろん人によりけりです。普段通りコンスタントに便を出す者もいれば、10日間一度も大便を出さないまま実験を終える者もいました。
小便は専用のホースに、大便は専用の便器に出します。無事出し切ったら、看護師さんを呼んで処理していただきます。その際、重量を計測していました。
◎自由時間
「実験」といっても、この10日間は被験者にとって、寝たきりという条件以外は、基本的に自由だった。体勢を変えなければ、眠っていても、PC作業をしていても、本を読んでいてもOK。各々が好きなように過ごしていた。
【実験の見学・被験者へのインタビュー】
◆ 実験中の症状
初めの二日間は頭痛があったけれど、だんだんと順応していきました。また、いつもよりも顔が熱く、平熱よりも高くなっていました。一方で、足先は冷たい感覚があり、毛布を使うなどして、体温調節を行うようにしていました。
また、のどの渇きが減退したとのことでした。頭に血が上り、下肢には血が流れにくくなったため、このような症状が生じていると考えられます。味覚と嗅覚が鈍化していたが、食べることがこの期間の一つの楽しみになっているという人もいました。お菓子などの甘いものを食べたくなることがあるとのことでした。個人差はあるが、食欲の低下が見られるという被験者もいました。
◆ 実験に持ってきてよかったもの、実験に対する希望
持ってきてよかったものとして、印象的であったのはサングラス型ディスプレイでした。サングラス型ディスプレイとは、サングラスに近い外観を持っており、着用してパソコンやスマートフォンと連携させれば、その画面が映画館のスクリーンに映し出されたように見えるものです。ベットレスト中は身体を起こすことができず、パソコンで作業をするとなれば首を曲げた状態を保たなければなりません。しかし、このサングラス型ディスプレイを着用すれば真上に画面が映し出され、首の負担もかからず快適に作業ができると言われていました。
また、被検者の実験に対する希望としては、手を洗うことのできる蛇口、ものを整理できるような環境面、隣の人の物音などの対処がありました。
◆ 実験で大変だったこと
大変だったこととして、排泄を挙げていた被検者が多かったです。排泄の際、慣れるまで看護師の方の手助けが必要となるため、心理的な苦痛を感じたり、寝た状態で排泄することが初めてであるため、尿意や便意は感じても排泄できるまでに時間がかかったりして大変であったと言われていました。
◆ 実験後の感覚の変化
1日目は目眩、脱水症状、個人差はあるが吐き気、後ろに引っ張られる感覚、頭を左右前後に振った際に、その方向にふらつく感覚、バランス感覚の衰え、関節が自由に動かない感覚、わずかな筋肉の減少、体重減少が見られました。
2日目は1日目よりも改善されたが、後ろに引っ張られる感覚、頭を左右前後に振った際に、その方向にふらつく感覚、バランス感覚の衰え、関節が自由に動かない感覚が残っていました。普通に頭を振ってもふらつきはそれほどでもなく、お辞儀程度まで下げると、1日目と同程度の目眩を感じました。走ることには恐怖を感じました。
3日目は頭を下げた時のふらつきはあるが、ほとんどが平常時に戻りました。走れるようにもなりました。