宇宙航空人材育成プログラム 将来の有人宇宙活動を支える宇宙医学人材養成プログラムの創出

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インタビュー

寺田昌弘先生インタビュー

今回は宇宙総合学研究ユニット 特定准教授の寺田昌弘先生にお話を伺いました。寺田先生は宇宙医学の教育や研究に携わられ、京大では有人宇宙医学講義や有人宇宙学実習などを担当されています。宇宙医学に進まれたきっかけやNASAへの留学経験についてお話を伺いました。最後には学生へのメッセージもあるので、宇宙医学・有人宇宙に進みたい学生の皆さんは必見です!

本日はありがとうございます。まずは、宇宙医学とは何なのか教えてください。

寺田先生:宇宙飛行士の健康管理がメインの学問です。しかしやがては民間旅行も始まるので、一般人の健康管理も考えなければなりませんし、長期滞在も考える必要があると個人的には思っています。また、宇宙医学を地上にどう還元するかも大事になってきます。

先生が宇宙医学に進まれたきっかけは何なのでしょう?

留学中のラボの様子

実は、最初は宇宙には全く興味がなかったんですが、院生の時に入ったのが大平先生(※大平充宣先生。現同志社大学宇宙医科学研究センター・センター長)のラボでした。NASAに行けるというのが面白くて入りました。その後、向井先生(※向井千秋宇宙飛行士)の研究室が立ち上がったので、JAXAにポスドクとして入りました。そこでは毛髪を用いて宇宙の健康影響を調べる研究の責任者をしていました。研究のためにジョンソン宇宙センターを訪れていたのですが、サターンロケットを見たときに、感動しました。アメリカは戦後すぐにこんな凄いものを!と思ったんですね。それで宇宙をやるならアメリカにと思い、NASAにトライしました。まず、国際学会に参加した時にAmes(Ames Research Center。NASAの生物医学研究施設)の日本人留学生がいたので、入り方を聞きました。そして彼に聞いた通り、CV(履歴書)を持って、別の学会で、研究者に手当たり次第アタックしていたら、なんとかNASAのAmesにポスドクとして入れることになりました。ちなみに、一年目の夏に自分の研究室に遊びにきたのが、以前会ったその日本人でした。まさかのラボのOBだったんですよ。ラボのボスからすれば同じような日本人がまた現れた、という感じだったんでしょうね笑。ずっと面白いこと、変わったことで、競争が少なそうなところに行きたいと思っていました。

宇宙医学の先生方は幼少期から宇宙好きな方がほとんどだと思っていたので、意外です!そんな先生が考える宇宙医学の魅力とは何ですか?

ジョンソン宇宙センターの
サターンロケット

まだまだ発展途上な分野ですから、自分で広げていけるのは面白いと思います。新しい価値観を取り入れていけるという面白さですね。夢がありますし、未知のことに取り組めます。それに、宇宙医学を地上に結びつけていけば、いろんな人の理解が得られ、大切にされると思います。ただし、実際にやっていることは一般の医学と変わらない、オーソドックスな実験や研究であって、宇宙だから特別ということはありません。そこはわかってほしいと思います。自分自身、長くやって初めて基礎の重要性がわかりました。

なるほど。先生が今取り組んでおられるのが「宇宙医学教育」ということですが、どういうことをされているのでしょうか?

宇宙医学実習の様子

一つには、長く宇宙医学に携わってきた講師陣がリレーで講義する有人宇宙医学講義を京大で立ち上げました。また、宇宙医学実習として、各地の研究室や施設で学生さんに実習してもらっています。何故教育が必要かというと、宇宙医学は今以上に広がる必要があると思っているからです。そのためには、医学系のみならず工学系・人文も一緒になってやらないといけないし、若い人の柔らかい頭が必要だと思います。また、宇宙は興味を惹く言葉なので、宇宙をきっかけに、医学など分野の勉強のモチベーションを掴んでもらえたらと思います。

宇宙からも医学からも宇宙医学に入れるのはいいところですよね。

そうですね。ただ、医学部限定だと思われるのはナンセンスですね。誰でも入れますから。医学系という言葉は狭すぎますし、宇宙は高度なところという勝手なイメージがあります。そんな壁を取り払うのに一番良いのが教育だと思っています。最近は興味を持ってくれる人も多く、小学生から大学生まで、いろんな年代のいろんな人が相談に来ます。ただ、少し学んで離れてしまう人は多いですね。ただ、また興味を持って帰ってきてくれたら歓迎します。やる気がある子には何かしら提供できるようにと心がけています。

宇宙医学を京大で学ぶ良さはありますか?

学問同士の垣根が低く、他分野との融合がしやすいと思います。面白ければやるという、関西のノリがあるからですかね。人と違うことをやってやろう、わからないことを形にしていこう、という京大の精神は宇宙をやる上での利点だと思います。

実際に他学部の人も参加しているんですか?

はい。確か、法学や人間・環境学研究科の人が宇宙医学講義を聴いています。

凄い、文系の人も聴講しているんですね!異分野からの新しい視点はありましたか?

お坊さんが聴きにきていて、死んだらどうする?死ぬ間際はどうする?という話になりました。確かに、宇宙には宗教観が違う人たちが来ていますから、医学のみならず宗教的な視点からも議論しなければなりません。また、宇宙放射線の防護の話がありますが、工学的な遮蔽のみならず、遺伝子改変で放射線に強い体を作ればいいのではという話もあります。倫理的な話ですよね。

先生は現在教育という学生の将来について考えるお仕事をされていますが、先生ご自身はこれから何をされるのですか?

面白いことをやっていきたいと思っています。そうじゃないと続いていきませんから。具体的には、宇宙生物・医療の中で何か柱のようなものを立てたい。場所のようなものです。宇宙医学を地上に応用していけるような所を作りたいと思っています。

では、最後に宇宙や宇宙医学を学びたい学生にメッセージをお願いします。

宇宙医学は限られた分野なので、医学や自分の専攻をしっかりと学んでから入って来てほしいと思っています。「宇宙」は実験条件の一つに過ぎません。いつでもどこからでも入れますから、自分の興味のある分野を見つけて、それを宇宙でやったらどうなるんだろう?と考えてみてほしいです。それで、さらに興味を持ったら、宇宙医学とは何か?を歴史から学んでください。JAXAのHPを見れば大体のイメージは掴めますし。また、視野は広く持ってください。真面目な学生が多いので、突っ走りがちですが、疲れたらちょっと休んで、細く長く続けてほしいなと思っています。

略歴

インタビュイー:寺田昌弘先生
岐阜県生まれ、岐阜薬科大学、大阪大学大学院、日本学術振興会特別研究員DC2を経て、2009年4月よりJAXA、2014年4月より東京慈恵会医科大学、2014年10月よりNASA Ames Research Center、2018年4月より現職である京都大学宇宙総合学研究ユニットに着任。博士(生命機能学)。専門は、宇宙医学。宇宙環境における人体影響に関する研究や、宇宙分野での人材育成に従事。

インタビュアー:斉藤良佳
京都大学医学部5年。2021年度京都大学久能賞受賞。宇宙医学の学生団体Space Medicine Japan Youth Communityの運営として、セミナーや教科書勉強会を主催。全国の学生に宇宙医学を広め、自分なりの宇宙医学を見つける手助けをしている。また、宇宙ビジネスや様々な宇宙コミュニティでの活動を通じて、日々宇宙に関する学びを深めている。

 

田中邦彦先生インタビュー

岐阜医療科学大学の様子

今回、京都大学の宇宙医学人材育成プログラムの一環として、岐阜医療科学大学の田中邦彦先生にインタビューをさせていただきました。田中先生は、主に宇宙服の研究を行っている方で、今年の宇宙航空環境医学会の大会長をされます。お忙しい中インタビューに答えてくださった田中先生ありがとうございました。また、引率してくださった京都大学の寺田先生、出口先生にもお礼申し上げます。

ご出身地、ご出身大学はどちらですか?

田中先生:兵庫県明石市。香川医科大(現在の香川大学医学部)です。

その後研修はどちらでされましたか?

大学院を卒業した後、神戸大学の関連病院で4年ほど外科で研修しました。

それからアメリカに留学されていますね。

はい。大学院で生理学を研究して、やはり研究をしている方が幸せであることに気づいたんですよ。研究なんてって学生の時は思っていたんですけどね。研究を一つ仕上げて卒業記念にアメリカの学会に行ったんだよね。ポスターを持って行ったんだけど、そこにとても有名な先生がやってきて、握手してくれたんですよ。こんな世界があるのかって思いました。当時、肝臓腎臓の研究していたんだけど、その道の勉強をしていると誰もが知っている有名な先生が7000演題くらいあるアメリカで一番大きな学会で、自分のポスターを探し出して質問に来てくれたんです。その時に握手したんですが、感動しました。それで研究の道に進もうと思うようになりました。大学院時代の恩師が岐阜大にいて、そこに行ったら早く留学してこいということになって、当時は宇宙医学の研究がちょうど始まった頃で、宇宙医学で留学するか、普通に外科の方でするかどっちの道もあったんだけど、当時はそうやって臨床もしていて、回り道していたので、ちょっとまわりと違うことやった方がいいかなと考えて、宇宙医学の方で留学先探して、でそこからって感じです。

大学院を卒業なさって一度臨床に戻られて、そのあとやはり研究に戻りたいという感じで、留学したんですね。

そうそう。病院やめて研究室に戻って、留学。留学先探すのにも1年かかった。

アメリカ留学中に大変だったことは何ですか?

留学行って、研究室から宇宙服の研究をするように言われたんだけど、宇宙服がどんなものかそもそも知らない。研究費をとるための計画書みたいなのが一冊だけあるだけで、計測装置とかも何もなかった。メーカーがついていたので、大きなチャンバーがあったが、それしかなかった。

チャンバーとは何ですか?

密閉した箱。箱の中に宇宙服の手の部分とか入れて、中の空気を抜いて圧力の差を作って実験するもの。ラボのメンバーに、この実験道具どこにあるって聞くのと、計測するプログラムも自分で作成、メーカーが作ってくれる実験道具は、工学系の人が作ったものだったので、医学の面から実験する際にはあまり使えないものが多く、自分でアレンジしたり、一から作るなどの実験のセットアップが一番大変だった。前例がないので。一旦できだすと、あとは順調に実験が進んでいった。

アメリカの留学先はどちらでしたか?

カリフォルニア大学サンディエゴ校。

研究員としてテーマを与えられたということなんですけども、いつまでにこういう風にしなさいとかいう指示はあったんですか。

三年計画だったので初年度は手袋について研究してこういうデータを取りましょうというのは、あったのでその結果を出していきました。

話題は変わるのですが、子供のころに宇宙に興味を持ったきっかけはなんでしたか?

ありがちだけどガンダムとか、スターウォーズとかかな。でも自分がちょっと人と違っていたなと思うのは、ガンダムを見たときに、ガンダムに乗りたいというよりも、ガンダム作りたいと思ったことですね。結構工学部だとこういう人が多いんだけどね。本当に宇宙関連で何かしようと思ったのは、病院を辞めて岐阜で研究して留学するとき。

宇宙関係の仕事ではなく、医者としての進路を選択した理由は何ですか?

もともと宇宙関連の仕事をするつもりはなかった。医者か先生か船乗りになりたいと思っていた。バラバラやないかってよく言われたんだけど笑。最初は影響を受けた先生がいて学校の先生になりたいと思っていた。だけど、中二の時にブラックジャック読んで、教員よりもお医者さんのほうがその人の人生に深く関われるんだなと思って医学部に進学しようと考えるようになった。対象とする年齢も幅広いし。

最近、最初から宇宙医学目指している学生さんがとても多い印象を受けるんですけども、はじめから宇宙医学を目指していくことについてどのように思いますか。

目指していいと思うよ。目指したとしても、日々定期試験は来るし、国家試験は受けないといけないし、やること決まっている。でも大半の学生は、日々忙しくて医師免許を取った後にどんな医者になりたいのかということはなかなか考えられない。自分の場合は、留年ギリギリで卒業して国試浪人して、ようやくなったけど、そのあとも外科医になりたいと思っていたけど、具体的にどんな外科医になりたいのか、どうすれば自分のオリジナリティーを出せるのか、テストに受かるのが必死で考えられなかったけど、その先に宇宙医学っていうのがあれば、なにかしら宇宙関係で働ける募集があるとか、チャンスがあったときに、それを見逃さないと思う。思ってないと素通りしちゃう。だから、少なくとも目標、夢を持っていることが大事。

宇宙医学の道に進んで良かったことはありますか

やっぱり楽しいね。自分のやっていることは見てもらったとおり地味なことばっかりだけど、宇宙服も手作りだしさ、でもこれが宇宙への入り口になっていると思うと楽しい。自分の考えた宇宙服を着て将来宇宙飛行士が活躍するかもしれないし、自分の考えた治療法で宇宙での症状が治るかもしれない、人類の健康増進と宇宙進出になにかしら役に立つかもしれないことができて、夢を持つことができているのは幸せなことだと思う。

宇宙医学の道に進むうえで学生のうちにしておくべきことはありますか

英語は最低限出来るようにしないとね。宇宙医学に限らず。日常会話レベルまでできれば、専門分野の単語とかも自然と身につくようになる。

ちなみに最近大学生は、学部生のうちに留学できる機会が多くあるのですが、どう思いますか。

ぜひ行った方がいいと思う。自分も行って価値観が変わったからね、34で価値観は普通変わんないけどね。外の世界から見られるので日本人と日本に対する見方が変わる。それは良い経験だと思うので若いうちに行くべきだと思う。あと、年を取るにつれて職場でも重要な役職についていたり、家族ができたりして、だんだん留学に行けなくなってくるから、学生のうちに行っておくのはいいと思う。

留学時代に一緒に切磋琢磨できるような仲間はいましたか?

もう一人オーストラリア人がいて、その人は邪魔ばっかりしてきた(笑)。英語が上手だから、俺がやったことを、さも自分がやったかのように言ったり、ひたすら邪魔ばっかりだったから、切磋琢磨っていう感じにはならなかったかな。自分は、給料も出ないで来ていて必死だったから土日も働くのに対して、その人はフェアじゃないと文句を言ってきていた。もともと外科医だったので土日に働くのは慣れていた。それでもパーティーにも週一くらいで参加していたので、友達はたくさんいてサンディエゴにいるだけで楽しかった。

研究と臨床を両立しているお医者さんも少なからずいると思うのですが、それは可能なんですか?

すごいよね。自分も大学院を卒業して研究をしたいと思いながら、臨床にいって、臨床しながら研究もしたいと思っていたけど、できなかった。特に外科だったから。いずれできると思っていたがやはり無理でどちらかに絞らざるを得なかった。

今後の目標は何ですか

やっぱり宇宙服を一つ完成させたい。明確なのはそれだけ。宇宙医学に関して実験していてデータが出ると、一つ当たり大抵2つくらい新しい疑問が出てくるから、やりたいことが次々と出てくるから、目標っていう感じなものはない。ただ、宇宙服に関しては、明確に完成させたくて、少し焦ってしまう部分もある。

でも今のところほかに宇宙服の研究をしていらっしゃるライバルはいないんですよね

今のところはいないけれども、やり始める人がいたら、あっという間に追い越されてしまうのではないかという危機感はある。いろんなアイデアや技術を持っている人もいるからね。ただ、今のところほかに宇宙服の研究をしている人がいないから、いろんな人が話を聞きに来てくれる。だからこそ、最終的には一つ仕上げたい。

最後に学生に対するメッセージをお願いします

何をしていいかわからくて焦ることもあるだろうけど、最低限自分は宇宙にかかわりたいという気持ちと、好奇心を持ち続けることが大事。それが潜在意識の中にあれば、チャンスを逃さない。これは宇宙とか医学とかに限った話ではなく、様々な専門領域を目指している人にも当てはまると思う。ずっと思い続けているとチャンスはくるので。

略歴

インタビュイー:田中邦彦先生
香川大学大学院を卒業後、外科として勤務。アメリカに留学し、宇宙服の研究を開始。現在は帰国し、岐阜医療科学大学薬学部で教鞭をとりつつ、宇宙服の研究を継続している。

インタビュアー:堀内亮汰
横浜市立大学医学部医学科1年。

東京慈恵会医科大学 細胞生理学講座 宇宙航空医学研究室 インタビュー

今回は東京慈恵会医科大学 細胞生理学講座 宇宙航空医学の南沢 享教授、暮地本 宙己講師、谷端 淳講師にインタビューをさせていただきました。国内大学で数少ない、宇宙医学・宇宙生命科学の研究を行っている研究室です。このインタビューでは、宇宙航空医学研究室のご紹介、先生方の宇宙医学研究について、これからの宇宙医学に求められるもの、宇宙医学を目指す方々に伝えたいことをお聞き致しました。

宇宙航空医学研究室の先生方、この度はご多忙中お時間を割いて下さり誠にありがとうございました。

南沢 享 教授

これからの宇宙医学に求められるものとは?

これまでの宇宙医学は、極限環境の中での人間の生理機能の変化を見る研究が主でした。例えば、微小重力下における体の変化のデータを長寿社会での長期間のベッドレスト等の老年医学に応用したり、宇宙放射線の研究から医療放射線暴露を考えるなど、宇宙での研究を地上の課題に還元する方向です。これからは、これまでのような研究に加え、宇宙に行くことでより有利に病気を治す等、地上でできないことを宇宙を利用して行う方向の研究も進んでいくと思います。

宇宙医学を目指す方々へ一言お願い致します。

ぜひ宇宙航空環境医学会をのっとってください!今宇宙医学に関わっていらっしゃる学生さんにはそのくらいの勢いがあると思います。期待しております。

 

暮地本 宙己 講師

宇宙航空医学研究室について教えて下さい。

現在、学部生4名が所属しています。学部生の中には日本宇宙環境医学会の表彰者もおり、東京慈恵会医科大学の医学部の中でも特に学生の研究意識が高い研究室だと感じています。今まさに「民間人の宇宙飛行」がトレンドであるので、宇宙航空医学研究室への所属を志望する学生が増えています。

先生の研究内容を教えて下さい。

In vivo研究では、JAXAから委託を受け、ISSに35日間滞在したマウスの胃と肝臓のサンプルをトランスクリプトミクスで解析したり、電子顕微鏡を用いた観察を行っています。

In vitro研究では、Graviteという装置を用いて、模擬微小重力下での血管内皮細胞の培養を行っています。これは、宇宙に行くと動脈硬化が起こるという過去の報告から、地上で模擬的に微小重力をかけて実験を行っています。

宇宙医学研究を始められたきっかけについて教えて下さい。

小さいときから漠然と研究者になりたいと思っていました。大学で学部2年生から所属した組織学講座での研究が非常に楽しく、最初は臨床の医局に入って働きながら研究を行いたいと考えていました。しかし、研修後、基礎系の大学院へ進学した際に、自分が一生をかけて携わりたいものは何なのかを始めて考えました。その時、「今わかっていないことを知りたい」と感じ、研究の道に進むことを決めました。

宇宙医学研究のきっかけは、研究者としての興味で細胞の重力需要メカニズムに注目したことです。学部6年生の時に心臓の研究をしており、特に心房性ナトリウム利尿ペプチドANPを産生する細胞を見ていました。研究の中で一般的なホルモンは上流のホルモンの存在に依って分泌されるのに、ANPは機械的刺激で分泌されるという点に疑問を感じており、物理的な力に興味を持ちました。物理的な力について本で調べた際、強い力、弱い力、電磁力、重力の4種類に大別されるとありました。その中で重力だけは機構がよくわかっていないと書かれており、そこに魅力を感じたのが最初です。

これからの宇宙医学に求められるものとは?

現在の宇宙医学は宇宙飛行士の健康管理に限定していますが、これからは民間人が対象になっていきます。現在、宇宙に滞在する宇宙飛行士は少人数ですが、民間人を対象にすると人数が増えるため、地上の臨床医学と同様に集団を対象とする目を持つ必要が出てきます。

また、宇宙飛行士は基本的に健康な人間が選ばれていますが、一般の民間人には多くの既往歴があり、そのような人々が宇宙に行くことを意識する必要があります。何かしらの病気に罹患されている方が宇宙に行くことで劇症化する可能性も考えられるため、保健衛生面を地上と同様に考え、医療的側面を充実させることが重要です。

宇宙医学を目指す方々へ一言お願い致します。

宇宙医学に取り組むためには、まず自分の専門分野を極め、他の人には負けない技術を一つでも持つことが重要だと思います。私の場合は電子顕微鏡が武器です。自分の専門に取り組みながら、自分が宇宙に携わる上で何をやりたいかという最終的な目標を見失わないようにすることが大切です。

 

谷端 淳 講師

先生の研究内容を教えて下さい。

骨格筋萎縮の抑制方法の開発を目標に、筋委縮が起こる環境である微小重力に注目をして研究を行っています。

宇宙医学研究を始められたきっかけを教えて下さい。

元々、筋ジストロフィーなど筋疾患の治療法開発の研究に携わっていました。現代日本の高齢社会で問題となっているサルコペニアに興味を持ち、筋委縮が起こる環境として宇宙の微小重力に注目しました。宇宙を筋萎縮の解明のための一つの方法として捉えています。サルコペニアと微小重力下での筋委縮では重力を受けているか否かの条件が異なるため、骨格筋がどのように重力をセンシングしているのかを常に頭に入れながら研究を進めています。

これからの宇宙医学に求められるものとは?

これからは「宇宙で得られたことがどのように地上に還元できるのか」という点で、よりジェネラルな応用が可能な研究が必要だと思います。そのために、宇宙医学を研究する上での自身の得意分野や専門領域を確立していただきたいです。

宇宙医学を目指す方々へ一言お願い致します。

宇宙は一昔前よりも身近になり、皆さんが宇宙に携わるチャンスが増えてきています。是非、研究機関や大学の関係者とコンタクトをとり、ネットワークを増やしていただきたいです。ただ、宇宙だけを見ていると、視野が狭くなってしまう可能性があります。そこで、自身の根幹となる専門領域を作ることによって、そこから宇宙にどう携わるのかを考えるのが良いと思います。

また、宇宙分野は幅が広いため、多くの情報や知識を得ることができますが、それゆえに何から手を付けていいかわからなくなることもあるかもしれません。そんな時、自分の根幹となる分野があると元の場所に立ち返り、目標を見直すことができます。また、得た知識をうのみにせず、そこから発展させて想像したり、疑問を持って自分で検討・解決しようとする姿勢が大切だと思います。

インタビュアー:宮本 汐里

日本獣医生命科学大学 獣医学部獣医学科6年。2021年度より東京慈恵会医科大 宇宙航空医学研究室に研究実習生として通う。文科省委託費事業 宇宙医学教育プログラム 宇宙医学実習2020年度・2022年度参加学生。JAXA開催アジアントライゼロG2022日本チームメンバー。宇宙に関する学生団体やコミュニティに所属して宇宙の学びを深め、獣医学の宇宙への貢献について日々模索している。